ガンビの話:「朝の食卓」

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2010/09/19

北海道新聞朝刊の連載コラム「朝の食卓」掲載

今回は白樺の樹皮の話です。


「ガンビの話」 有明 正之

 阿寒の森に住み薪ストーブを使い始めたころ、近所の人がこれ使えと言って白樺の皮を持って来てくれた。北海道では白樺の皮をガンビと呼び、たきつけとして当たり前に使っていたそうだ。

 実際に火をつけてみると、黒煙を上げジジジジと勢いよく燃える。油分が多いためすぐに着火し、火持ちもいい。乾燥させたものを適当な大きさに切って常備しておくと、最高のたきつけになる。

 昔、山に入る猟師や木こりにとって、火おこしの材料としてガンビは必携品だったという。時には棒の先に巻き付け、たいまつとして使うこともあったそうだ。今風に言えば、まさにサバイバルグッズだ。

 当時は、立木から切り取って使ったりもしたらしいが、樹皮をはがされた木は枯れてしまうので、今ではそんなことはしない。森の中を歩いていて、運良く拾ったときだけ、ありがたく使わせてもらっている。

 ガンビを燃やしたときに出る煙には、燻煙のような独特の芳ばしさがある。だんだんとこの香りをかぐと、条件的にまきストーブのぬくもりを連想し、温かな心地よさを感じるようになった。

 開拓時代の先人たちにとっても、ガンビの煙のにおいは心温まるものだったに違いない。そう想像すると、ほんの少しだけ当時の開拓者の気持ちを共有できた気がする。

(パイオニアラボ代表)・釧路